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VOL.02 秋山剛徳 ​x​ ​石渡美奈

混ざることを柔軟に楽しめるか〜長く勝つ秘けつ

「食あるところに文化あり」。ホッピービバレッジがニューヨーカーに東京カルチャーを体験してもらうイベント「HOPPY NIGHT OUT」の立役者として、なくてはならない存在である和食レストランSakaMaiのシェフ、秋山剛徳(あきやまたかのり)さんと、ホッピー3代目・石渡美奈。ともに「混ざる・混ぜる」ことに、ポジティブな相乗効果を信じる二人が、ホッピーを片手に語り合った。 (以下、敬称は略します)

試行錯誤の末に生まれた、“ミックス”というスタイル

石渡 ホッピーを媒介に、東京をはじめ日本の飲食文化や伝統芸能、エスプリをニューヨーカーに知っていただくことを目的にしたイベント「HOPPY NIGHT OUT」でこれまで3度、コラボレーション協力いただいているSakaMaiさん、そして秋山シェフですが、この度、5周年を迎えられたとのこと(2017年12月時点)、おめでとうございます!マンハッタンの中でもっとも再開発が進むローワーイーストサイドというエリアで、5年間に渡ってお店を守り続けていらしたことは、すごいことだと感じます。どんなお気持ちですか?
秋山 ありがとうございます。まさにあっという間でした。思い返すと、はじめのころは本当に「大変」としかいえない状態で、5年経ってようやく落ち着いてきた、よくなってきたといえる段階にきたと思っています。
石渡 印象に残っていることはありますか?
秋山 たくさんありますが、そのひとつにホッピーさんとのイベントがあります。東京の銘店のシェフをお招きして一緒にイベントを行う機会なんて滅多にあるものではありません。うちのスタッフも楽しんで、いい刺激になっているみたいです。

石渡 そういっていただけるとうれしいです。秋山シェフとSakaMaiのスタッフのみなさまには、いつも多大なご協力をいただいており、感謝しきれません。秋山シェフには毎回、ニューヨークと日本ならではの食材と秋山スタイルの調理法を駆使したホッピーのペアリングにぴったりの料理の数々を振る舞っていただき、最高のおもてなしをゲストの方々に届けてくださり、本当にありがとうございます。これまで、麻布十番にある老舗蕎麦店「更科堀井」より堀井良教(ほりいよしのり)シェフ、赤坂の日本料理店「津やま」より鈴木弘政(ずすきひろまさ)シェフをお招きし、堀井シェフには蕎麦打ちの実演、鈴木シェフには出汁料理をつくっていただきました。ともにSakaMaiという、食文化を体感できる特別な空間があってできたことです。

秋山 こちらこそ貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございます。

石渡 シェフの方にとって、キッチンってお城だと思うんですね。だから、他人に入られるということはそんなに気持ちのいいことではないはずです。それを秋山シェフにはいつもウェルカムしていただいてきました。改めてお礼をお伝えしたいです、本当にありがとうございます。先方のシェフも、そんな秋山さんの懐の深さとお人柄に感謝しておられて、だからこそ一緒にいいものをつくりあげていけるのだと感じます!先日のHOPPY NIGHT OUT201710月開催)で秋山さんが振る舞ってくださった「納豆バター餅」、鈴木シェフがさっそく帰国された日につくって、赤坂でお客様に振る舞われていました。好評でしたよ。鈴木シェフもインスピレーションを得て楽しまれたようです。

秋山 それはうれしいですね。お互いの何かを混ぜてというコラボレーションではありませんが、同じ空間で一緒につくるという時間が、なにより貴重で、化学変化のような刺激をくれたような気がしています。

石渡 秋山シェフのスタイルは、やはりニューヨークという土地柄もあるのか、さまざまな食文化や食材の事情から、ミックスしてつくりあげてきた、という印象を、遊び心のあるメニューからも感じます。混ぜる・混ざることに関して、なにか思い入れがありますか?

秋山 僕が料理人として初めて働いたのは六本木の瀬里奈だったので、ミックス、フュージョン系の料理ではありませんでした。やはりニューヨークにきてから、だんだんとそうなってきたのだと思っています。そうせざるを得なかったというのももちろんあります。僕は1995年にこちらにきたので、美奈さんのご指摘のとおり、当時、食材もいまよりは手に入らなかった。伝統的な日本料理だけをやるには、限界があったんです。違う食材をつかってみる、混ぜてみるというのは、試行錯誤の一環でした。

石渡 試行錯誤をしていくなかで、和と洋が美しく調和されている秋山スタイルは生まれたんですね。ほかにどんなインスピレーションがありましたか?

秋山 とにかく外に食べに行っていましたね。そのお店のメニューを見るのは、いまでも暇があればやっています。昔はインターネットがないので店先まで見に行っていましたが、いまは便利ですよね。メニューを見ながら、どんな食材をつかっているのか、この季節にどんな風につかっているのか。食べながら、どんな風に調理しているのかとか、とにかくそんなことばかりしています。

石渡 インスピレーションの源は「メニューを見ること」というわけですね。わたしの大学院の先生で、いまワシントンD.C.にいらっしゃる方がいて、たまにスカイプで緊急指導をいただくことがあるんです。あるとき、先生の視線がわたしの背後にあるのを感じて「先生、なにをみていらっしゃるんですか?」と聞いたら「本棚です」というんです。先生いわく、本棚でその人の思考がわかるとのこと。並べ方や位置も含めてその人の思考だと。なるほどなと思ったんですが、秋山シェフがほかのお店、シェフのメニューを見ることもそれときっと同じなんでしょうね。メニューはきっとシェフの思考だから、いろいろわかる。秋山シェフがお休みのときもメニューをみてしまうのは、そういう理由もあるのでしょうか。

食文化をより深くするために。店から発信する意義

石渡 エグゼクティブシェフ(料理長)としてSakaMaiの立ち上げからこれまで5年、これからどんなお店にしていきたいですか。

秋山 もっと楽しい場所にしたいですね。それこそ、格式張った料理ではなく、居酒屋のような楽しいメニューを提供していきたいです。僕にとっての居酒屋って、お酒を囲んで楽しめる場所。ニューヨークにもいわゆるIZAKAYAブームがありますが、楽しく飲んで食べることができる居酒屋を発信していきたいです。SakaMaiは本来、お酒をメインに食べ物はおつまみ程度を想定しての開店でしたが、料理へのニーズが高く、バーカウンターを減らしてテーブルスペースにしたりと常に形を変えてきた店です。そういう意味で、これからも変化を恐れず、いろいろなことを試しながら楽しくやっていきたいですね。

石渡 SakaMaiのメニューは味はもちろん、見た目も美しく、いつもうっとりしますが、そうですね。遊び心があるんですよ、だから楽しいんですね!看板メニューの「egg on egg on egg」なんてその典型ですよね。

秋山 ありがとうございます。そのまんまでしょう?ウニが好き、キャビアも好き、卵も好きだから、全部のせてみたという(笑)。

石渡 ウニの殻に盛り付けられていて、見た目も斬新です。ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ、これまでさまざまなメディアで取り上げられてきた一品ですよね。近年にはライフスタイルマガジンのRefinery29に「The Most Instagrammed Restaurants In NYC(最もインスタグラムされたニューヨーク市のレストラン)」に選ばれていたのも、すばらしいことですね。

秋山 ありがとうございます。実はこのメニュー、以前働いていたLanレストランで出していたもので、一切変わっていないんですよ。いまではウニ好きが増えているし、SakaMaiにウニを食べにくるというお客さまもいるくらいウニが市民権を得つつありますが、それこそ167年前にLanで出していたころは、「これ一体なんなんだ」という方が多かったですね。

石渡 でも続けてこられた。秋山さんがニューヨーカーのウニ好き人口増加に貢献されたといってもいいかもしれません。お客さまのニーズに合わせるだけでなく、お店から発信していくことで食文化がまたより深いものになりますよね。そういった意味でも、発信していくこと、続けることには大きな意義を感じます。

ミックスの相乗効果、ハーフではなくダブル

石渡 「混ざる・混ぜる」についてもっと深くお話を聞きたいんですが、「混ざる・混ぜる」ということに怖さなどは感じたことはないですか?食だけでなく、秋山さんご自身の歩まれてきた道も、それこそいろいろなものと混ざってきたと思います。

秋山 ニューヨークにいるからというのもあるかもしれませんが、抵抗はありませんね。むしろ当たり前というか。別に混ざったからといって一緒になってしまうというわけではありませんしね。食でいうと、混ぜるとよくなる場合も多い。合わせだしとかもそうでしょう?ポジティブな相乗効果があるんです。食以外でも、そういう側面があると信じたいですね。いま、あるじゃないですか。ミックスすることをハーフとはいわずに「ダブル」という。半分になるわけじゃない、2倍になるみたいな。美奈さんも混ざる・混ぜるのお好きですよね(笑)。

石渡 はい。もう日々、何と混ざって違うものになるか、違うものにするかと考えています(笑)。

混ざる・混ぜることで新しい発想が生まれる

秋山 美奈さんにとって混ざる・混ぜるとはなんですか?

石渡 「世界が広がる」ということ、「新しい世界へのアクセス」です。混ざる・混ぜることで新しい発想が生まれると感じています。

秋山 僕の場合、正直いうと、昔よりいまの方が怖さを感じてしまうようになっています。単体で食べたらおいしいから混ぜたらおいしいんじゃないかっていう発想で、若いころはどーんとできました。実際、いまでも僕、本当にこんなに食べるのかっていうくらい食べて納得してつくっているんですが、若いころの方が怖さもなく、変なこともできたなあって。いまの方が逆に失敗する怖さとか考えてしまいます。それでも、混ぜる楽しさ、混ざる楽しさは追求していきたいですね。特にSakaMaiに関しては、なんでも追求していきたいと考えています。

続けるために、なににこだわるのか

秋山 混ぜるといえばホッピーですが、SakaMaiではホッピーはもちろん、Hoppy Muleというカクテルも提供しています。熱狂的に好きな方がいて「売ってくれないか」なんて方もいるし、「どこで買えるのか」という質問も受けます。販売される予定はないんですか?

石渡 ありがたいお声です。そこに関してはゆっくり、じっくりさせていただいています。量より質を大切にしているので。質が成長していれば、量は対応できると思いますが、下手をすると組織が空中分解すると考えています。そして、商品のクオリティへのこだわりはもちろん、ホッピーの持ち味、文化的なものにこだわりたいと考えています。それを共有・共感していただける方々と、まずはしっかりつながりたいと考えています。だから今はニューヨークに関しても「進出」と大々的にうたっていません。秋山シェフはどんなことにこだわっていきたいですか?

秋山 イメージ、ブランドとしてのこだわりですね。すごいな、なかなか簡単にできることではないです。僕自身は、料理をずっと続けていくと思っているので、そのために新しいことにもっとチャレンジしていきたいという気持ちはあります。

石渡 実際、SakaMai以外にもジャパニーズカレーのお店「Curry Bo」、ハワイアンポケのお店「Young Street Poke Co.」、洋食バー「Bar Moga」を手がけていらっしゃいますよね。次のチャレンジを伺ってもよいですか?

秋山 テイスティングとおまかせのみというスタイルのお店をずっとやりたいと思ってきたんですが、今年いよいよオープンさせます。

石渡 それは楽しみですね。日本にもオープンしてください!秋山さんにはロマンと秘めたる闘志、決めたことをやりぬく強さを感じるのでぜひ!ロマンってやっぱり男性のための言葉ですよ。

秋山 日本にオープン、夢ですね。

石渡 ホッピービバレッジは東京・港区赤坂生まれ、赤坂育ち、私も赤坂生まれ赤坂育ちで、今も赤坂在住在勤ですが、赤坂という街で飲食業を含め商いをされている方々と触れ合っていると、長く勝つ人たちの秘けつみたいなものがわかる気がします。結局、混ぜたり混ざったりすることに柔軟で、それを楽しめる人が勝つのではないかと…。秋山シェフはまさにそれを実行されているので、必ず実現されると信じています!

Photographers: Lisa Kato, Naoko Takagi (the 3rd, 4th, and the 5th from the top)

秋山剛徳

TAKANORI AKIYAMA

SakaMai(酒舞)エグゼクティブシェフ

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