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居酒屋→IZAKAYA、変化という名の進化を

ニューヨーク市マンハッタン区。山手線内側とほぼ同面積といわれるこのエリアには、2万4,000軒の飲食店があるという。さらにローワーイーストサイドという地域は世界中のグルメが集まる激戦区。ここで本物志向が強いうえに新しいもの好きでもあるニューヨーカーの舌を唸らせ続けることは、まさに至難の技だ。「New York IZAKAYA & Sake Bar」を銘打つ「SakaMai(酒舞)」がこのエリアに店を構えたのは、同エリアが再開発でにぎわいをみせはじめた2012年のこと。エリアの発展とともに変化を恐れず楽しみながらニューヨークの居酒屋シーンを牽引してきたSakaMaiとエグゼクティブ・シェフの秋山剛徳(あきやまたかのり)さんを訪ねた。

居酒屋とIZAKAYA、どちらも「楽しい場所」

SakaMaiを訪れたら、居酒屋の進化系に遭遇した気持ちになるかもしれない。落ち着いた照明のトーンやインテリアはバーラウンジのような空間を演出していて、いわゆる居酒屋とは一線を画している。それでも「これがIZAKAYAというものか」と納得してしまうのはここがニューヨークだからだろうか。それともそもそも、居酒屋の定義の懐が深いからだろうか。居酒屋とIZAKAYAには、共通項がある。秋山シェフのそれは「お酒と料理で仲間とわいわい楽しめる場所」であり、いわく「今後はもっと、SakaMaiをそういう場所にしていきたいです」。

「刺身」や「ポテトサラダ」、「揚げしし唐」など、聞き馴染みのある居酒屋メニューも秋山シェフの手にかかると、“IZAKAYA感”が付加される。それは、味覚・嗅覚・食感だけではなく視覚も刺激する盛り付けの仕方やニューヨークならではの食材を使っての味付け、別の言い方をすれば、秋山スタイルがあるからだ。

居酒屋がIZAKAYAになるとき、そこには付加的な要素がある。その土地特有の食材だったり郷土料理からヒントを得たメニューだったり、店主やシェフの「色」だったり。100あれば100通りの、1000あれば1000通りの居酒屋があって、その違いが楽しいからこそ居酒屋ファンは絶えないのだろう。日本国内にだってさまざまなタイプの居酒屋があるのだ。世界をベースに考えれば、その違いも星の数ほどになる。つまるところ、居酒屋は懐の深いジャンルで、「アメリカン」「フレンチ」「イタリアン」といった具合に要素が加わると“IZAKAYA感”が増し、IZAKAYAになる。

「みんなでわいわい、いろんな料理と酒を楽しむ」というのは、世界共通の幸せな時間の過ごし方といっていい。その「いろんな」の数が、国内だけではなく国外からもカウントされるので一気に倍増する。日本国内だけでは気づきにくい、居酒屋文化の普遍性や面白さをIZAKAYAを通してわたしたち日本人は再発見できる。IZAKAYAを体感すると、まさに温故知新の逆、「温新知故」の境地に立てる。そして「ニューヨーク」という要素が加わったのが、SakaMaiというIZAKAYAだ。

モチベーションの源は「自分が食べたいかどうか」

昨年末に5周年を迎えたSakaMaiは、常に変化をしてきた店だ。オープン当初は、日本酒ブームに沸くニューヨーカーのニーズを先取りした日本酒をもっと嗜める空間をイメージ。日本酒がメイン、料理はつまみ程度と想定し「Sake Lounge」を銘打ったものの、秋山シェフの料理の評判があまりにもよく、定期的なメニューの変更はもちろん店内奥にもあったバーカウンターもダイニングスペースにするなど大小の変化を繰り返すことを厭わず、お客に寄り添いながら、さらにはニューヨークのIZAKAYAブームを牽引しながら、SakaMaiは進化してきた。

変化は進化。混ざること・変わることを恐れない気質のようなものはニューヨークという立地要因だけでなく、SakaMaiという城の主人でもある秋山シェフの人となりにもあるのだろう。すでに在ニューヨーク歴22年、休みの日は「食べ歩きしたり、ほかのお店のメニューをみて食材をどう調理しているのか勉強したりしています」というほど根っからの料理人。「単に食べることが好きなんですよ」とはにかむが、自分が食べたいかどうかを基準に自分が好きなものをつくることをモチベーションに、これまで走ってきた。

自身の卵好きが高じて生まれた「Egg on Egg on Egg」は、トロトロのスクランブルエッグの上にウニとキャビアをのせたもの。New York Times紙をはじめさまざまなメディアで取り上げられるだけでなくインスタグラムでまたたく間に食通の間に広がり、いまやSakaMaiの看板メニューだ。また、「肉料理なら秋山シェフ」「秋山シェフは肉の魔術師」という声もよく聞く。トロけるのではなく噛みごたえのある赤身の肉。ふわりと鼻腔に広がる香り、じわりと深みある肉の味わいに虜になる客は多い。

「ニューヨークにやってきてキッチンを任されることになったLanには足掛け10年ほどいました。オーナーが肉の卸しをしていたので、いろいろな肉をつかわせてもらえたんです。いい勉強になりました」。料理人として歩んできた点と点が線となり道となって、いまに繋がっている。

「楽しい」で築く、ウィンウィンの関係

祖父の世代から新潟で料理旅館をしていた家に生まれた秋山シェフ。父の兄弟は4人とも寿司職人になったという料理一家で、秋山少年にとってキッチンにいることはごく自然なことだった。高校も調理科に行き、東京・六本木にある瀬里奈に就職。ただ、高校のときにはすでに「アメリカに行きたい」という思いがあったという。瀬里奈に就職したのも「当時、支店がニューヨークにあったから」。なぜアメリカだったのかもいたってシンプル。「単純にカルチャーに憧れていたんだと思います」と笑う。

念願が叶ったのは1995年。「瀬里奈で一緒に働いていた加川仁さん(現在、神楽坂の割烹「來経」にて料理長)がニューヨークに新しくオープンするレストランに招かれて、僕がニューヨークに行きたいことを知っていたので誘ってくれたんです。加川さんからは香りづけやハーブなどの調味料の使い方の影響を受けたと思っています」

同じ夢やチャレンジの場を共有できる人の存在は大きい。日本料理のような、フレンチのような、絶妙なバランスを保つ秋山スタイルがいかにして生まれたのかを紐解くと、彼がいかに人から学び試行錯誤し独自のスタイルを築いていったかがよくわかる。

現在、SakaMaiだけではなくニューヨーク市内にハワイアンポケ専門店「Young Street Poke Co.」、日本カレー専門店「Curry Bo」、大正ロマンの雰囲気漂う洋食カクテルバー「Bar Moga」の三店舗の料理も手がけている。ニッチともいえる専門飲食店を展開する秋山シェフにとって、IZAKAYAという広い括りで自身のつくり出す料理の変化と進化を追求できる意義は大きい。お客にとってもSakaMaiで五感をフルに刺激してくれる最新のメニューと楽しいひとときが過ごせるのだからウィンウィンの関係だ。

レシピがあっても情熱がなければ同じものはできない

今年はおまかせメニュー・カウンター席のみの懐石料亭「月見」のオープンも控えている秋山シェフ。ニューヨークにくるきっかけとなったレストラン「おいかわ」で寿司カウンターに立ってお客と向き合ったことも、「当時はただただ無我夢中でしたが、いい経験になったと思います」と糧となっていることをひしひしと感じているようだ。

SakaMaiを基軸に多店舗展開するうえで「育てること」に大きな課題を感じている秋山シェフ。「ひとりでは全部できないので人材の育成は必須です。レシピだけでは同じものは絶対できないんですよね。情熱がないとだめなんです。そしてその情熱は、向き合って話して伝えていくしかない。だからやはり、キッチンに立ち続けることは大切なことだと思っています」

目下、日本人スタッフをどう確保するかが命題という業界事情。ますます和食に注目が集まるいまだからこそ、さらには本物志向が強いニューヨークではなおさら、全体の底上げのための人材確保が急務のようだ。日本で和食をやってきたというバックグラウンドをもっている人材がいると、ここニューヨークの和食のレベルがもっと上がることは周知の事実だ。

「だからといって、現地スタッフがダメというわけではないんです。トレーニングをすれば、何人だってできると僕は信じています」と語尾を強める秋山シェフ。混ざることを恐れず変化し進化してきた彼だからこそ、断言できることだ。

世界中の「本物」が集まるここニューヨークで、変化し進化しながら挑戦を続けるSakaMaiの秋山シェフ率いるチーム秋山。ここで生まれたIZAKAYAカルチャーが日本に逆輸入される日も近いかもしれない。

ニューヨークでホッピーが飲める店でもある同店。ホッピーに焼酎、ライムジュース、フレッシュジンジャーを加えた「HOPPY MULE」というカクテルが楽しめる。

Photographers: Naoko Takagi, Kuo-Heng Huan (the 10th from the top)
取材撮影:2017年12月

酒舞

SAKAMAI

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